転職活動は在職中・退職後どちらがいい?メリット・デメリット比較
① 「どちらが正解」ではなく「どちらが今の自分に合うか」
先に結論めいたことを書いておくと、在職中と退職後のどちらが優れているかを、一律に決めることはできません。両者は「何を失って、何を得るか」の交換条件が違うだけで、優劣の関係にはないからです。
在職中の活動は収入と生活の安定を保てる代わりに、時間の自由を失います。退職後の活動は時間の自由を得る代わりに、収入と社会的な立場の安定を手放します。今の自分にとって、どちらの制約なら耐えられるか——判断の実体はそこにあります。
また、この選択は職種や雇用形態によっても大きく変わります。シフト勤務で平日の日中に動きにくい仕事もあれば、比較的時間の調整がしやすい仕事もあります。有期契約や派遣で契約満了の時期が決まっている場合は、そもそも「在職中か退職後か」を自分で選べるとは限りません。以下のメリット・デメリットは、ご自身の働き方に置き換えながら読んでみてください。
② 在職中に転職活動をするメリット・デメリット
メリット:収入が途切れず、判断に余裕が生まれる
在職中に活動する最大の利点は、毎月の収入が続くことです。これは家計の話にとどまりません。収入があるということは、「条件が合わなければ断れる」という選択の自由を持ったまま活動できるということでもあります。
逆に言えば、収入が途切れた状態では「早く決めなければ」という圧力が働きます。その焦りが、本来なら見送っていたはずの求人への妥協につながることがある——というのが、在職中の活動がよく勧められる理由です。
- 収入が途切れない——貯蓄を取り崩さずに活動でき、生活設計が崩れにくい
- 健康保険・年金の切り替え手続きが不要——勤務先の社会保険に加入したままなので、退職に伴う各種手続きが発生しない
- 職歴に空白期間ができない——ブランクの説明を求められる場面がない
- 条件が合わなければ「今回は見送る」という判断ができる——今の仕事という退路があるぶん、妥協しにくい
- 「働きながら次を探している」という状況自体が、選考で説明しやすい
デメリット:時間の確保がとにかく難しい
一方で、在職中の活動には現実的な壁があります。面接や書類作成の時間を、今の仕事の合間から捻出しなければならないことです。
企業側の面接は平日の日中に設定されることが多く、そのたびに有給休暇や中抜けを調整する必要があります。応募先が複数になれば、この調整だけでかなりの負担になります。書類の作成や企業研究も、就業後や休日に回すことになります。
- 面接の日程調整が難しい——平日日中の面接に合わせて休みを取る必要がある
- 準備に充てられる時間が限られる——書類作成や企業研究が就業後・休日に集中する
- 心身の負担が重なりやすい——今の仕事の疲れを抱えたまま選考に臨むことになる
- 活動が長期化しやすい——動ける時間が限られるぶん、応募できる社数のペースが落ちる
- 社内に知られないよう配慮が要る——服装や電話対応など、細かい気遣いが増える
- 入社時期の調整が必要——内定が出ても、引き継ぎや退職手続きの期間を見込んで入社日を相談することになる
③ 退職後に転職活動をするメリット・デメリット
メリット:時間と集中力をすべて注げる
退職後に活動する最大の利点は、当然ながら時間の自由です。平日の日中に面接を入れられる、複数社の選考を並行しても調整に困らない、書類の作り込みや企業研究にじっくり時間をかけられる——在職中の悩みの多くが、そのまま解消されます。
さらに、資格取得や職業訓練など、次の仕事に向けた準備そのものに時間を使えるのも退職後ならではです。特に、未経験の分野へ移ろうとしている場合や、心身の状態を整えてから動き直したい場合には、この時間の価値は小さくありません。
- 面接の日程を柔軟に入れられる——平日日中の面接が続いても対応できる
- 準備に十分な時間をかけられる——書類の作り込み、企業研究、面接練習
- 複数社の選考を並行しやすい——結果として比較検討がしやすくなる
- すぐに入社できる——欠員補充など、早期の入社を求める求人と相性がよい
- 学び直しや資格取得に時間を使える——職業訓練を利用する選択肢もある
- 気持ちの整理をつけてから動ける——心身の消耗が大きかった場合、回復の時間を確保できる
デメリット:収入が止まり、時間の経過が焦りに変わる
退職後の活動でまず現実的な問題になるのが、収入が途切れることです。給与がなくなっても、家賃や食費といった生活費は変わらず出ていきます。それに加えて、退職後は健康保険料や国民年金保険料、住民税を自分で納めることになります(詳しくは⑤で触れます)。
もう一つ見落とされやすいのが、時間の余裕が精神的な余裕を意味するとは限らないという点です。貯蓄が減っていく感覚と、決まらない期間が延びていく不安が重なると、「時間はあるのに落ち着いて考えられない」という状態になることがあります。
- 収入が途切れる——貯蓄の取り崩しが前提になる
- 社会保険料・住民税の負担が自己負担で発生する——会社が半分負担していた分がなくなる
- 期間が延びるほど焦りが強まる——結果として条件面で妥協しやすくなる場合がある
- ブランク(離職期間)の説明を求められることがある——長くなるほど理由を聞かれやすい
- 戻る場所がない——「合わなければ今回は見送る」という判断がしにくくなる
- 生活リズムが崩れやすい——自分で予定を組まないと1日の輪郭がぼやける
④ 在職中・退職後を一覧で比較する
ここまでの内容を、判断に使いやすい形で並べておきます。
| 比較項目 | 在職中に活動 | 退職後に活動 |
|---|---|---|
| 収入 | 途切れない | 途切れる(貯蓄が前提) |
| 活動に使える時間 | 限られる(就業後・休日中心) | 確保しやすい |
| 面接の日程調整 | 有給休暇などの調整が必要 | 柔軟に対応できる |
| 社会保険・年金 | 勤務先のまま、手続き不要 | 自分で切り替え手続きが必要 |
| 雇用保険(失業保険) | 対象外(失業状態ではないため) | 要件を満たせば対象になり得る |
| 職歴の空白 | 生じない | 生じる(説明できる状態にしておく) |
| 入社できる時期 | 引き継ぎ期間を見込んだ調整が必要 | 早期入社に対応しやすい |
| 妥協のしにくさ | 断る余裕がある | 期間が延びると焦りが出やすい |
| 心身の負担 | 仕事と活動の二重負荷 | 回復の時間は取れるが、経済的不安が生じる |
⑤ 退職後に関わる制度の基礎知識(失業保険・健康保険・年金)
退職後の活動を検討するなら、公的な制度の仕組みを先に知っておく必要があります。「失業保険があるから何とかなる」と考えていたら、想定と実際が違った——という事態を避けるためです。ここでは厚生労働省・ハローワーク、全国健康保険協会(協会けんぽ)、日本年金機構が公表している内容をもとに、基本的な部分だけ整理します。
雇用保険の基本手当(いわゆる「失業保険」)
まず前提として、基本手当は「失業の状態にある人」に支給されるものです。ハローワークで公表されている受給要件は、大きく次の2つです。
- 失業の状態にあること——ハローワークに来所して求職の申込みを行い、就職しようとする積極的な意思と、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず職業に就くことができない状態
- 被保険者期間——離職の日以前2年間に、被保険者期間が通算して12か月以上あること(倒産・解雇などによる特定受給資格者、および特定理由離職者は、離職の日以前1年間に通算6か月以上)
つまり、在職中の転職活動では基本手当は受けられませんし、退職後であっても求職の申込みをしていなければ支給は始まりません。また、離職前の被保険者期間が足りない場合は対象外となります。
支給開始までの時間についても、押さえておきたい点があります。ハローワークの説明によれば、受給資格決定日から通算7日間は「待期期間」とされ、離職理由にかかわらず一律にこの期間は支給されません。
さらに、正当な理由がない自己都合退職の場合は、待期期間の満了後に「給付制限」が加わります。ここは近年制度が変わった部分です。厚生労働省・ハローワークの公表内容によれば、離職日が令和7年(2025年)4月1日以降であれば、給付制限は原則1か月とされています。ただし例外があり、離職日から遡って5年間のうちに2回以上、正当な理由なく自己都合離職して受給資格決定を受けている場合などは3か月とされています。
加えて、令和7年4月以降にリ・スキリングのための教育訓練等を受けた場合には、この給付制限が解除される取り扱いも設けられています。
健康保険——退職後は3つの選択肢がある
会社を辞めると、それまでの健康保険の資格を失います。退職後は、大きく次の3つのいずれかを選ぶことになります。
| 選択肢 | 概要 | 手続きの期限 |
|---|---|---|
| 任意継続 | 退職前に加入していた健康保険に、退職後も引き続き加入する制度。協会けんぽの説明では、退職日までに継続して2か月以上の被保険者期間があることが条件で、加入できる期間は最長2年間 | 退職日の翌日から20日以内 |
| 国民健康保険 | お住まいの市区町村が運営する医療保険に加入する | 原則14日以内(市区町村の窓口) |
| 家族の被扶養者になる | 配偶者など、家族が加入する健康保険の被扶養者となる。収入などの認定要件がある | 加入先の健康保険が定める手続きによる |
ここで注意したいのが保険料の負担感です。在職中の健康保険料は会社と本人で折半していますが、任意継続を選ぶと事業主が負担していた分も自分で払うことになります。協会けんぽは、この点について「退職時の健康保険料の2倍となります」と説明しています(保険料の算定には標準報酬月額の上限が設けられています)。
任意継続と国民健康保険のどちらが安くなるかは、前職の給与水準や扶養家族の人数、お住まいの自治体によって変わります。両方の保険料を試算して比べてから決めるのが確実です。任意継続は退職日の翌日から20日以内という期限があるため、退職が決まった段階で早めに動いておく必要があります。
年金——国民年金への切り替えが必要になる
会社員として厚生年金に加入していた人が退職し、すぐに次の会社に入らない場合は、国民年金の第1号被保険者への切り替え手続きが必要です。日本年金機構の案内によれば、手続きの期限は退職日の翌日から14日以内で、窓口はお住まいの市区町村役場です。
この手続きを忘れると、年金の未納期間が生じてしまう可能性があります。保険料の納付が経済的に難しい場合には、免除・納付猶予といった制度の相談先も市区町村や年金事務所になります。
⑥ どちらを選ぶかの判断軸
制度の話まで踏まえたうえで、実際に判断するときの軸を整理します。「どちらが良いか」ではなく「自分の状況はどちらの条件を満たしているか」という順番で考えると、迷いが減ります。
軸1:貯蓄で何か月耐えられるか
これが最も大きな軸です。退職後を選ぶなら、収入ゼロの状態で生活費を何か月まかなえるかを実際に計算しておきます。計算に入れるのは家賃・食費などの生活費だけではありません。前述のとおり、退職後は健康保険料・国民年金保険料・住民税が自己負担で発生します。
基本手当を当てにする場合も、待期期間や自己都合退職の給付制限があるため、退職の翌日から支給が始まるわけではありません。支給が始まるまでの期間を、貯蓄でつなげるかどうかが実質的な判断材料になります。
軸2:希望条件の緊急度はどれくらいか
「今すぐにでも今の環境から離れたい」のか、「良いところがあれば移りたい」のか。ここで前提が変わります。
心身の不調が出ているなど、今の環境にとどまること自体が負担になっている場合は、退職を先行させる判断が現実的なこともあります。一方で「条件が良ければ動きたい」という段階なら、在職中にじっくり探す方が、選択の自由を保ったまま進められます。
軸3:どれくらいの期間で決めるつもりか
希望する条件が明確で応募先の目星がついている場合と、業界や職種の方向性から考え直したい場合とでは、必要な期間が変わります。後者ほど時間がかかりやすく、そのぶん退職後の活動では貯蓄への圧力が強まります。
退職後を選ぶなら、活動を始める前に「◯か月で決められなければ、条件を見直す/短期の仕事も検討する」といったあらかじめの区切りを決めておくと、無期限に不安が続く状態を避けやすくなります。
軸4:今の仕事の忙しさで、実際に動けるか
在職中の活動は「収入が続くから安心」と言われますが、現実に活動時間を確保できなければ成立しません。休みが取りにくい、残業が常態化している、シフトの融通が利かない——こうした状況では、在職中の活動が名ばかりになり、何か月も進まないことがあります。
その場合は「在職中か退職後か」の二択で悩む前に、面接の時間帯を柔軟に調整できないか応募先に相談する、日程調整を代行してくれる転職エージェントを使うなど、時間の制約そのものを緩める工夫を先に検討する余地があります。
- 貯蓄——収入ゼロで何か月耐えられるか(社会保険料・住民税を含めて計算する)
- 緊急度——今の環境にとどまること自体が負担になっていないか
- 想定期間——条件が明確か、方向性から考え直す段階か
- 実行可能性——在職中に、実際に面接や準備の時間を取れるか
⑦ 第三の選択肢:「在職中に進めて、決まってから辞める」
ここまで二択として書いてきましたが、実際には「在職中に活動を始め、内定が出てから退職する」という順番が、選べる状況にある人には最もリスクが小さい進め方だと言われます。収入が途切れず、職歴の空白も生じないためです。
ただしこの進め方には、次の2つの負荷がかかります。
- 選考期間中の二重負荷——今の仕事を続けながら、書類作成と面接をこなす
- 内定後の日程調整——引き継ぎと退職手続きの期間を確保しつつ、入社日を相談する
特に後者は、内定を受けてから慌てて考えると無理が出ます。就業規則で定められた退職の申し出時期と、引き継ぎに現実的に必要な期間を、活動を始める段階で把握しておくと、内定後の交渉がずいぶん楽になります。この点は 退職の切り出し方・円満退職のコツ で具体的にまとめています。
逆に、この進め方が難しい状況もあります。心身の不調が出ている場合、勤務時間の制約で面接に一切対応できない場合、契約期間の満了が先に来る場合などです。「理想の順番があるからそうすべき」ではなく、自分の状況で実行できるかどうかで選んでください。
📌 まとめ
- 在職中と退職後に優劣はなく、「収入の安定を取るか、時間の自由を取るか」という交換条件の違い
- 在職中のメリットは収入・社会保険の継続と職歴の空白がないこと。デメリットは面接日程と準備時間の確保が難しいこと
- 退職後のメリットは時間と集中力を注げること。デメリットは収入が止まり、社会保険料や住民税が自己負担で発生すること
- 基本手当(失業保険)は「失業の状態」でハローワークに求職の申込みをした人が対象。離職前2年間に被保険者期間が通算12か月以上あることなどの要件がある(特定受給資格者・特定理由離職者は1年間に6か月以上)
- 受給資格決定日から通算7日間は待期期間。正当な理由がない自己都合退職の場合、離職日が令和7年4月1日以降なら給付制限は原則1か月(5年間に2回以上の該当がある場合などは3か月)
- 健康保険は「任意継続(退職日の翌日から20日以内)」「国民健康保険(原則14日以内)」「家族の被扶養者」の3択。国民年金への切り替えは14日以内が目安
- 判断軸は「貯蓄で何か月耐えられるか」「今の環境の緊急度」「想定する活動期間」「在職中に実際に動けるか」の4つ
- 選べる状況なら「在職中に進めて、決まってから辞める」が最もリスクが小さい。ただし実行できるかどうかが前提
※この記事は転職活動の一般的な進め方をまとめたものです。雇用保険(基本手当)・健康保険・国民年金に関する記載は、厚生労働省およびハローワーク、全国健康保険協会(協会けんぽ)、日本年金機構が公表している情報をもとにしていますが、制度は改正される場合があり、また加入している健康保険の種類やお住まいの自治体によって取り扱いが異なることがあります。実際の受給要件・金額・保険料・手続き期限は、必ずハローワーク、加入先の健康保険(協会けんぽ・健康保険組合など)、お住まいの市区町村・年金事務所の公式情報をご確認ください。個別の判断はご自身の状況を踏まえてご検討ください。